統合失調症
統合失調症

統合失調症とは、幻覚(特に幻聴)や妄想、思考のまとまりにくさ、感情や意欲の低下などがみられる病気です。幻聴とは、実際には存在しない声が聞こえる体験で、「誰かが自分の悪口を言っている」「命令される」などの内容が多くみられます。妄想とは、事実とは異なる思い込みを強く信じ込み、周囲が否定しても確信が変わらない状態です。発症は10代後半から30代にかけて多く、生涯で約100人に1人(0.7%前後)がかかる比較的ありふれた病気です。遺伝的な要因が関与する一方で、家族に患者がいない人にも発症します。原因はまだ完全には解明されていませんが、脳の神経伝達物質(特にドパミンやグルタミン酸など)のバランスの乱れが関係しており、心理的ストレスや環境変化が引き金となることがあります。統合失調症の経過はさまざまで、幻聴や妄想が急に現れる「急性期」から、感情や意欲が低下する「慢性期」を経て、再発を防ぎながら安定を保つ「維持期」へと移行します。早期に治療を始めるほど、症状の回復や社会生活の再建が早いことが多く、早期発見・早期介入が何より大切です。
症状の現れ方は人によって異なりますが、代表的なものを以下に示します。
これらのうち、幻覚・妄想などを「陽性症状」、感情や意欲の低下を「陰性症状」と呼びます。また、注意力や判断力、記憶力が落ちる「認知機能の障害」がみられることもあります。初期の段階では「最近少し様子がおかしい」「人づきあいが減った」「眠れない」といった小さな変化から始まることも少なくありません。
統合失調症の原因は一つではなく、生まれ持った体質(脆弱性)に心理的・社会的ストレスなどが重なることで発症すると考えられています。この考え方は「ストレス脆弱性モデル」と呼ばれます。脳科学の研究では、前頭葉や側頭葉などの神経ネットワークの働きに異常がみられ、思考や感情、現実検討力のバランスが崩れることが報告されています。また、睡眠不足や不規則な生活、孤立した環境なども発症や再発のリスクを高めます。統合失調症は「心の弱さ」や「性格の問題」ではなく、脳の働きの不調によって起こる病気で
治療の柱は薬物療法と心理社会的支援の2本立てです。
抗精神病薬は、脳内の神経伝達のバランスを整え、幻覚や妄想などの症状を和らげます。
現在は、飲み薬だけでなく、月1回〜3か月に1回の注射剤(持効性注射剤:デポ製剤)も選択できるようになり、服薬を忘れがちな方にも適しています。重要なのは、症状が落ち着いた後も治療を続けることです。統合失調症は、薬をやめると再発しやすい病気です。「もう治った」と感じても、自己判断で中止すると数週間〜数か月で再発することが多く、再発を繰り返すほど治りにくくなります。当院では、副作用を最小限に抑えつつ、生活や仕事との両立を重視した治療を行います。薬の種類や量は「最小限で最大の効果」を目指し、患者様と相談しながら丁寧に調整していきます。
薬だけでは十分でないことも多いため、生活リズムの改善やストレスへの対処を一緒に考えることが大切です。睡眠、食事、活動のバランスを整えることは、再発予防に非常に効果的です。
また、病気に対する理解を深める心理教育も重要です。「どういうときに悪化しやすいか」「どんなサインに気づけばいいか」を本人と家族が理解することで、早めに対処できるようになります。当院ではデイケアや作業療法は行っていませんが、症状が安定し社会復帰を目指す段階では、地域の支援機関や他医療機関と連携し、必要に応じて紹介・調整を行っています。
統合失調症は、早期発見・早期治療が鍵です。私の臨床経験でも、発症後できるだけ早く治療を始めた方ほど、症状の安定や社会復帰が早い傾向があります。一方で、本人に病気の自覚がなく、「自分は普通だ」と思い込んでしまうため、受診が遅れることが少なくありません。周囲が「おかしい」と感じても、本人は気づかないことが多いのです。
といった変化に気づいた時点で、どうぞ一度ご相談ください。
発症前や症状がまだ軽い段階から専門的な関わりを始めることで、発症や重症化を防げる場合があります。初期の段階であれば、通院だけで十分にコントロールできることも多く、学校や仕事を続けながら治療することも可能です。
統合失調症は、長期にわたって付き合っていく病気ですが、適切な治療と支援によって安定した生活を送ることができます。ご家族が病気を理解し、焦らずサポートすることが、本人の安心と回復に直結します。病気の特性上、本人の言動に「わざと」「怠けている」と感じることもあるかもしれませんが、それは脳の機能の変化によるものです。ご家族自身も無理をせず、支援の負担を分かち合える仕組みを利用することが大切です。当院では、ご家族の不安にも耳を傾けながら、治療の方向性を一緒に考えていきます。
統合失調症は、早期に気づき、適切な治療を続けることで回復が十分に期待できる病気です。不安なことがあれば、どんな段階でもかまいません。「もしかして」と感じたときが、相談のタイミングです。ご本人もご家族も、一人で悩まず、どうぞ早めにご相談ください。安心して通える場所として、当院がその第一歩を支えます。
TOP