認知症
認知症

認知症は、記憶力・判断力・理解力・計画実行力(遂行機能)などの「認知機能」が低下し、仕事や家事、金銭・服薬管理、移動など日常生活に支障が出てくる状態の総称です。加齢とともに増えますが、原因は一つではありません。多くは進行性ですが、なかには治療で改善が期待できるタイプ(可逆性の認知機能低下)もあります。早く気づき、適切な検査と生活面の工夫、薬物・非薬物療法を組み合わせることで、進行を緩やかにし、生活の質(QOL)を保つことができます。なお、認知機能が低下しつつあるものの、日常生活に支障がない段階を軽度認知障害(MCI)といいます。将来認知症へ進むリスクが高く、定期的な評価と生活習慣の見直しが重要です。
自然な加齢でも「固有名詞が出にくい」「思い出すのに時間がかかる」ことはあります。一方、以下のような変化が積み重なると病的なもの忘れが疑われます。
例:財布や鍵の置き場所を忘れるのは加齢でも起きますが、「財布の使い方・お金の管理そのものができない」は病的なサインです。
認知症の主な原因は次のとおりです(頻度はおおよその目安)。
慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、ビタミンB12欠乏、薬剤性(抗コリン作用薬・一部の睡眠薬・抗不安薬など)、てんかん、睡眠時無呼吸症候群ほか
※せん妄(発熱・脱水・感染・薬剤・環境変化などを背景に起こる急性の意識変容)は認知症とは異なり、可逆的な原因検索と治療が優先です。
当院では、年齢相応の物忘れと病的な物忘れを見分けるために、段階的・多面的に評価します。
生活歴・服薬歴・既往歴を丁寧に伺い、HDS-R、MMSE-Jなどの心理検査を実施します。家族同席での情報共有が診断精度を高めます。
甲状腺機能、ビタミンB12/葉酸、電解質、腎肝機能、炎症、梅毒などを確認し、可逆性原因を見逃さないようにします。睡眠障害や難聴の確認も重要です。
必要に応じて連携医療機関で頭部MRIなどの画像検査を行い、脳萎縮や脳血管病変、慢性硬膜下血腫などを評価します。
急な悪化(せん妄が疑われる時):発熱・脱水・肺尿路感染・便秘・新規薬剤・飲酒などの誘因検索を優先し、早期対応します。
治療は「非薬物療法を土台に、必要最小限の薬物療法を安全に組み合わせる」ことが基本です。病型や症状、全身状態、生活環境に合わせて個別化します。
いずれも少量から開始し、徐脈・胃腸症状・めまい・ふらつきなどの副作用を確認しながら調整します。
BPSD(不安・抑うつ・焦燥・幻視・睡眠障害など)には、まず原因調整(痛み・便秘・環境・昼夜逆転)を優先し、なお必要な場合に限って抗うつ薬・抗不安薬・抗精神病薬を慎重に使用します。転倒・せん妄・認知悪化など副作用のリスクがあるため最小限にとどめます。
症状は「その人の性格」ではなく病気による変化です。叱責や訂正よりも、環境と声かけの工夫が役立ちます。
認知症は誰にでも起こりうる身近な病気ですが、原因はさまざまで対処法も異なります。早期に気づき、適切な検査と生活の工夫、必要最小限の薬物療法、介護資源の活用を組み合わせることで、できることはたくさんあります。「年齢のせいかな?」と感じたら、まずは簡単な認知機能テストから。私たちは医療と介護をつなぎ、ご本人とご家族が安心してその人らしく暮らせるように伴走します。
TOP