その他精神疾患
その他精神疾患

精神科で扱う病気は多岐にわたります。うつ病や統合失調症、双極症(躁うつ病)、パニック症や強迫症などの代表的な疾患以外にも、心や行動の不調として現れるさまざまな病気があります。ここでは、そうした「その他の精神疾患」について、主な特徴と治療の方向性を紹介します。どの病気にも共通していえるのは、「性格の問題」や「気の持ちよう」ではなく、脳や心の働きのバランスが一時的に崩れた状態であるということです。早めに専門医に相談することで、回復の道筋を立てることができます。
不安症は、明確な原因がなくても強い不安や心配が続く病気です。代表的なものに全般性不安症、社交不安症(あがり症)、限局性恐怖症(特定の対象への恐怖)などがあります。たとえば「いつも最悪の事態を考えてしまう」「人前に出ると過度に緊張してしまう」「特定の場所に行けない」など、生活に支障をきたす不安が特徴です。治療は、SSRIやSNRIなどの抗うつ薬による薬物療法と、考え方の癖を見直す認知行動療法が中心となります。環境調整やストレス対処法の学習も有効です。
強迫関連障害には、醜形恐怖症(身体醜形症)、抜毛症、ためこみ症などが含まれます。「見た目がどうしても気になる」「髪を抜く癖がやめられない」「物を捨てられず部屋が片づかない」といった行動が繰り返され、本人も困っているのにやめられないのが特徴です。
強迫症と同様、脳の働きの偏り(セロトニン系の関与)が指摘されており、SSRIの内服行動療法(曝露反応妨害法など)が有効とされています。
神経発達症は、生まれつきの脳の働き方の違いによって、学習や言葉、動作などの発達に特徴が見られる状態を指します。ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)は別ページで紹介していますが、ほかにも学習症(LD)やチック症、発達性協調運動症などが含まれます。学習症では「読み書きや計算が苦手」、チック症では「まばたきや咳払いなど同じ動きが繰り返される」といった症状が見られます。これらは意志や努力では抑えられず、本人が最も困っているケースも多くあります。治療は、特性を理解したうえで、学習支援・生活調整・行動療法を中心に行います。症状によっては薬の併用も検討されます。
当院では、必要に応じて小児科や専門機関と連携し、日常生活の困りごとを整理しながら支援方針を立てていきます。
検査で異常が見つからないのに、痛みや息苦しさ、しびれ、倦怠感などの身体症状が続く病気です。「気のせい」ではなく、脳がストレスを身体の不調として感じ取ってしまう状態と考えられます。背景には、心理的ストレスや過去のつらい経験、完璧主義的な性格傾向などが関係することあります。治療は、身体症状を否定せず丁寧に受け止めながら、ストレス対処法の指導・認知行動療法・抗うつ薬や抗不安薬の併用を行います。私の臨床経験でも、「検査で異常がないのに体がつらい」と訴える方は多く、心身両面からアプローチすることが回復への近道になります。
強いストレスやトラウマ体験をきっかけに、記憶や意識、自己感覚が一時的に分離する病気です。「気がついたら時間が経っていた」「自分を外から見ているような感覚がある」「ある出来事だけ思い出せない」などの症状が見られます。代表的なものに解離性健忘、離人感・現実感消失症、解離性同一性障害(多重人格)などがあります。治療では、まず安全な環境の確保と信頼関係の構築が何より大切です。その上で、支持的な心理療法やトラウマ体験に焦点を当てた治療を慎重に行います。
強いストレス体験に続いて心身に不調をきたす病気のうち、急性ストレス反応や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などが該当します。PTSDでは、フラッシュバック(当時の出来事が突然よみがえる)、悪夢、過覚醒(常に緊張している)、回避(思い出すのを避ける)といった症状が見られます。治療は、心理教育・段階的な曝露療法(安全を保ちながら記憶を整理する方法)・抗うつ薬などの薬物療法が有効です。当院では、安心できる環境でお話を伺い、必要に応じて専門機関と連携します。
神経性やせ症(拒食症)、神経性過食症(過食・嘔吐)、過食性障害などが含まれます。「太るのが怖い」「食べることをコントロールできない」といった思いにとらわれ、体重や食行動に極端な偏りが生じます。背景には、自己評価の低さや家族関係、ストレス対処の難しさが関係することが多いです。治療は、栄養管理・心理療法(CBT-Eなど)・家族支援を柱とし、必要に応じて専門病院と連携します。早期の介入が回復につながります。
アルコール、薬物、ギャンブル、インターネット、ゲームなど「やめたいのにやめられない」状態を指します。依存は意志の弱さではなく、脳の報酬系の機能変化によって制御が難しくなっている病気です。治療は、断酒・断薬支援、依存行動のコントロールを学ぶ心理療法、必要に応じて薬物療法を行います。重度の場合は依存症専門医療機関と連携しながら治療を進めます。
性格傾向が極端で、対人関係や感情調整に持続的な困難をきたす病気です。境界性、回避性、自己愛性、強迫性、反社会性などが代表的です。「感情の波が激しい」「人間関係が安定しない」「孤立しがち」などの特徴があります。治療は、薬だけでなく心理療法(対人関係療法、弁証法的行動療法〈DBT〉など)を軸に進めます。
加齢などを背景に、記憶力や判断力が低下し、日常生活に支障をきたす病気です。アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症などが代表的です。もの忘れのほか、意欲の低下や不安・妄想・幻覚などの精神症状を伴うこともあります。診断には画像検査などが必要なため、当院では初期評価や家族支援を中心に行い、必要に応じて神経内科と連携します。
精神疾患といっても、その形や背景はさまざまです。どの疾患も、早期に気づき、適切に支援につながることが最も重要です。「自分でもよくわからない不調」「どの病気に当てはまるかわからない」という場合でも構いません。当院では、症状の背景を丁寧に見立てながら、必要に応じて専門機関と連携し、一人ひとりに合ったサポートを心がけています。
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