うつ病
うつ病

うつ病は、気分が強く落ち込み、何をしても楽しく感じられない状態が続く病気です。単なる一時的な落ち込みとは異なり、脳の働きが一時的に不調をきたし、感情や思考、体のリズムを調整する仕組みがうまく働かなくなることで起こります。気分の落ち込みに加えて、眠れない、食欲がない、疲れやすい、集中できないなど、心と体の両面に症状が現れ、日常生活や仕事・学業に支障をきたすことがあります。うつ病は、誰にでも起こりうる病気です。責任感が強く、まじめに頑張る人ほど発症しやすいと言われますが、「心が弱いから」「怠けているから」なるものではありません。社会的にも身近な病気であり、早期に気づいて適切な治療を受けることが回復の第一歩になります。
うつ病の症状は人によって異なりますが、次のような特徴がみられます。
これらの症状が2週間以上続き、生活や仕事に支障をきたしている場合は、うつ病の可能性があります。人によっては「焦りやすい」「落ち着かない」「怒りっぽくなる」といった形で現れることもあり、必ずしも「泣いてばかり」「動けない」といった典型的なイメージとは限りません。
うつ病の発症には、心理的ストレス、過労、生活環境の変化、身体疾患、性格傾向(責任感が強い、完璧主義など)などが複合的に関係しています。特に、過度な緊張状態が長く続いたり、環境変化が重なったりすると、脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)のバランスが崩れ、気分や意欲をうまく調整できなくなります。
一方で、甲状腺機能低下症や脳血管障害、薬の副作用などによっても「抑うつ症状」が生じることがありますが、これらはうつ病とは異なる病態です。正確な診断には、医師による丁寧な問診と必要に応じた検査が不可欠です。また、臨床の現場では「適応障害」や「双極性障害(躁うつ病)」と見分けが難しい場合もあり、数週間から数か月の経過を追いながら慎重に診断を進めます。
うつ病の治療は、休養・薬物療法・生活調整を柱として進めます。
まずは心身を休ませ、疲労を回復させることが大切です。仕事や学業などを一時的に離れ、十分な睡眠と休養をとることで、脳の働きを立て直します。症状に応じて抗うつ薬を用い、不眠や不安が強い場合には睡眠薬や抗不安薬を併用します。これらの薬は脳内の伝達物質の働きを整えることで、気分の改善を促しますが、効果が現れるまでには数週間を要します。焦らず、医師と相談しながら続けることが大切です。
症状が改善しても、すぐに薬をやめると再発することがあるため、一定期間の継続治療が必要です。薬をやめるタイミングは自己判断ではなく、医師と相談して慎重に決めます。回復期には、生活リズムを整え、食事・睡眠・活動のバランスを保つことが再発予防につながります。ストレスとの向き合い方を見直し、過剰な努力や完璧主義を少しずつ手放していくことも重要です。
復職や学業の再開については、焦らず段階的に行うことが原則です。気分の波が安定しても、急に負荷を戻すと再び体調を崩すことがあります。主治医や職場と相談しながら、無理のないペースで復帰を進めましょう。
なお、強い希死念慮(死にたい気持ち)がある場合や、自分を制御できないほどの焦燥・衝動がみられる場合には、入院治療が必要になることがあります。当院では、そのような場合には適切な入院先医療機関をご紹介し、安全な治療体制へとつなげます。
当院では、うつ病の診断と治療にあたり、まず丁寧な問診で生活背景やストレスの状況を把握します。
薬物療法だけでなく、休養の取り方、生活リズムの整え方、再発予防のための環境調整などを一緒に考え、患者様一人ひとりに合わせた支援を行っています。必要に応じて、休職や勤務時間の短縮などの調整をサポートし、診断書の発行も行っています。社会的な制度(傷病手当金、自立支援医療など)の利用方法についてもご説明します。
私の臨床経験でも、早めに受診し、適切な治療を始めた方ほど回復が早く、その後の再発も少ない印象があります。「疲れがとれない」「気分が晴れない」「朝がつらい」といった初期の段階でも、ためらわずに相談していただくことで、深刻な状態を防ぐことができます。
うつ病は時間をかけて回復していく病気です。焦らず、無理のない範囲で日常生活を整えながら、少しずつ元の生活を取り戻していきましょう。
うつ病は「気の持ちよう」ではなく、脳と心のバランスを崩す病気です。
「頑張って」「気にしすぎだよ」と励ますことは逆効果になる場合があります。まずは十分な休息を認め、静かに寄り添ってあげてください。 家族が焦らず見守ることが、患者様にとって大きな支えになります。また、うつ病の経過中は気分の波があり、良くなったり悪くなったりを繰り返すことが普通です。焦らず、「今は休む時期」と受け止めてあげることが大切です。 ご家族も心身の負担を抱え込みやすいため、不安があるときは一緒にご相談ください。当院では家族の方への説明やサポートも行っています。
うつ病は、誰にでも起こりうる身近な病気です。 適切な治療と休養によって多くの方が回復し、再び自分らしい生活を取り戻しています。 「気分の落ち込みが続く」「眠れない」「何をしても楽しくない」と感じたときは、どうぞ早めにご相談ください。私たちは、患者様とご家族が安心して治療に取り組めるよう、丁寧に寄り添いながら支援していきます。
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